清想空

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open05.04.12
その瞳に映る人 第9話
トイレを済ませてからダイニングへと移動すると、落がさして面白くもなさそうなテレビ番組を見ていた。
テレビに視線をやりながらも二科が起き出していたことに気付いていたのか、ダイニングに入った二科を振り返る。
「起きたのか、調子はどうだ」
「さっきよりはいい、……ような気がする」
なめらかに声を出すことができた。水分をしっかりとったせいか。それとも昼食をとりながら落と会話をしたせいだろうか。
まだ身体はだるく、ずっと立っていると頭がくらりとする感じは残っているものの、起きているのもやっとというような辛さはなくなった。
そのまま伝えると、熱はどうかと重ねて問われて首を傾げる。
熱がどうこう言われても感覚ではよくわからなかった。体温計で測った方がいいかと問い返すと、いやいいとだけ答えた落が椅子を立って、二科の額に手のひらを当てた。
クーラーがちょうど当っていたのか。ひんやりとした手が二科の火照った額に心地良い。
「薬が効いてるな。後はゆっくり休んでおけば大丈夫だろう」
落の手の感触を楽しんでいたいけれど、すぐにそれは離れて行ってしまった。
少しばかりでなく残念で、視線でついつい手のひらを追ってしまう二科に、落は気付かなかったらしい。コーヒーを飲み干したコップを手にして、キッチンへと向かってしまう。
二科は名残惜しく、手際よくコップを洗う落の背中を見つめる。
広い背中だ。
そんなことを思いながら見ていたら、なんとなく、本当に頭で考えた理由などなく、唐突にその背中に触れたくなって、二科はキッチンへと足を向けた。
洗い終わったコップを干し場に置いている落の背中に手を伸ばす。Tシャツ一枚の身体も適度に冷えているのか、触った瞬間気持ちの良い温度が手に伝わってきた。
「おい」
背後からのいきなりの接触に驚いたのか、落の身体がびくりと反応した。
手の下で筋肉が動いて、冷たかった感触がすぐに熱さに取って代わられる。落の体温が手のひらにじんわりと伝わってきて、熱いなと思った。
けれどその熱さが恋しい。
人とこうして触れ合うのはどれくらいぶりだろうか。
他人の体温は触れればどきりとするものだけれど、同時に何とも言えない心地良さを与えてくれる。自分以外の熱に包まれると、まるで甘えるのを許されているようで安堵を覚える。だからそれが好きだった。
これが好き。この温かくて、熱いのが落ち着く。
伝わる体温をもっと感じたい。
唐突にわいた欲求に瞬間戸惑ったが、二科は落の背中に頭を擦り付けた。頬を当てると、そちらにも落の体温が伝わって安心する。
スキンシップというものにこれだけ飢えていたとは思わなかった。
もっともっとぬくもりを感じたい。欲する気持ちのままに身体を寄せると、落が困ったような声で問いかけてきた。
「一体どうしたんだ、あんた」
二科が自分から落に触れるのはセックスの最中を除けば、初めてかもしれない。そして落がこんな風に戸惑ったり、二科に優しい瞳を向けたりするのも、おそらく初めてだろう。
今日は互いに何かがおかしい。二人とも、今まで相手に見せていなかった面をさらけ出していた。
落が二科の前から逃れようとするのを、腹に腕を回してもたれかかるようにして無理矢理とどめて、身体を擦り付ける。自分の足で落の脚を挟み込むようにすれば、落の体温を身体全体で感じられて、その熱が二科の身体に移ってくるような錯覚に陥った。
他人の熱に包み込まれるような感覚に二科はうっとりとして瞳を閉じる。触れたところから落の、二科よりも少し低い体温が染み渡り、そのままじっとしていると少し熱い。けれど、熱が下がりかけた身体に、それすら心地良く感じるのはなぜだろう。
「おいおい」
「もう少しこうさせろ」
たまりかねたような落の声も無視して引っ付いていると、予期せず肌がざわついてきた。伝わる熱に反応するように、二科の中に別の熱が生まれる。
なぜ突然そんな風に火が灯ったのか自分でもよくわからなかった。けれど生まれた熱はあっという間に二科の身体を支配して、抗えなくする。
下肢に熱が伝わり、じわりじわりと反応し始めるのがわかった。
「落……」
掠れた、甘えるような声音には何かをねだるような響きがあって、落にもそれは伝わったらしい。身じろぎした落に強引に身体を離された。
落から引き剥がされた腕が、身体が、急に熱を奪われて寂しかった。寂しさをそのまま視線に乗せて落を見れば、二科の正面に向き直った男は不可思議なものを見るような視線を二科に向けてくる。
それを正面から受け止めて、けれど今の自分の顔を見られたくなくて二科は俯いた。
身体に火がついた自分がひどく恥ずかしいもののように感じられる。けれど、火がついた身体は、あの痺れるような快感を得るまでは落ち着けない。走りきるまで、どこまでも求めて行ってしまう。二科の意思で止められるものではなかった。
最後まで走り抜けたい。抱いて鎮めてもらいたい。
身体につられるように気持ちまで走り始めた。瞳は欲情で濡れ、口からは欲しいものを欲する言葉が零れた。
「落。落……」
二科がこうしてきちんと落の名前を呼ぶのも初めてかもしれなかった。
一度口からもれてしまえばためらいもなく、するすると零れ落ちた。
声には物欲しげな響きがあった。それを恥ずかしいと思う余裕は、もうなかった。
抱きしめてもらいたくて、奪われた熱を取り返したくて、二科は落の名前を口にしながら縋るように落の胸へと身体をすり寄せた。
「落、抱いて……」
「……あんたなあ、俺を何だと思ってるんだ。病人を抱くような趣味はないぞ」
がしがしと頭をかいて、落は二科の肩を抱いてもう一度離そうとする。
呆れたようなため息が落ちても、二科は抱いて欲しいと、ぬくもりが欲しいのだと、いっそう顔を胸に押し付けた。
「いいから抱けよ」
「ったく、こんなにがりがりで、熱あるくせに何強気で馬鹿なこと言ってんだ」
落の言うことはもっともだった。
二科の身体はここのところの不摂生でかなり痩せてしまっていた。今は治まっているものの、熱も高くふらふらしていたのだ。
でも。今はそんなことを考えてはいられなかった。
そんな気遣いは欲しくなくなかった。
欲しいのは、二科の身体を鎮めてくれる誰かの熱だ。熱くなってしまった身体を持て余してしまうから、暴走する熱を止めてほしかった。
落はそれをなかなか理解してくれなかった。
二科が気の迷いで言い出したとでも思っているのだろうか。どこまでも冷静な言葉で二科を収めようとするのが気に食わなかった。
いつものように、二科の意思を無視するような強さで抱いてしまえばいいのに、何をためらっているのだろうか。
「とにかく、あんたはゆっくり寝とけ」
「いやだ。……抱けよ」
二科を思いとどまらせようとするような落に、嫌だと首を振りながら抱けと何度も繰り返した。これを収めてほしいと、病気とは違う熱に満たされている身体を落の身体に押し付けた。
「お願いだから」
必死になって少しでも落がその気になるようにと、わずかに反応を見せている腰を擦り付けた。さらに胸に鼻先を擦り付けるような甘えるような仕草をすれば、つられるように落の体温も少しずつ上昇してくるのがわかる。
極め付けにもう一度強く抱けと命令するように口にすれば、落が諦めたようにため息をついた。
「しようがねえなあ」
「も、なんでもいいから、早く」
「ちょっと落ち着けって」
病人相手だと気遣っているのか、ホテルのバスルームでも二科を抱いたことがあるくせに、行為に及ぶのなら身体が辛くないようにと、ベッドへと連れて行かれた。
無理はさせられないとでも言うような気遣いはいささかくすぐったい。
そんなことよりもと性急になりがちな二科をいなしながら、けれど落は諦めたのか二科を抱いてくれるらしい。
二科が煽った下肢が反応しているのがわかって、それが心地良かった。抱いてもらえるのだと思うと、安心にも似た気持ちがわきあがる。
二科を抱きしめるようにしながらベッドへと寝かせた落は、迷わず二科のパジャマを剥ぎ取った。
いきなり全裸にされて、ひんやりとした空気に肌が粟立つ。クーラーで適度に冷やされた部屋の空気は、温もったパジャマをとられた二科の肌には少し冷たい。
寒さを癒してほしいと、パジャマをハンガーにかけて戻ってきた落に抱きついた。
ぎゅっとしてほしいと手に力を入れれば、衣服を身につけたままの落が同じだけの力で抱き返してくれる。その強さが、乱暴なものではなく優しいものであるような気がして、少しだけ物足りない。
もっと乱暴にしていい。もっと強くしていい。激しく、二科の求めるがままに抱いてもらいたい。
そう思うのに、落はどこまでも優しい素振りを見せるから、少しじれったかった。奪われるくらいに強くしてもいいのに、と思うから余計にそう感じるのだろうか。
「ん……、いい、から」
早く欲しいと、久しぶりの愛撫に過敏なまでに反応してしまう身体をさらして誘う。落はそれには乗ってこないで、肉の落ちてしまった二科の身体にキスと手のひらの愛撫をゆっくりと落としていく。
「口はなしだからな」
「あっ……ん、……落、落……っ、もういい……っ」
病気は移されたくないと言いながら、細い二科の身体を労わるような愛撫は想像以上に辛かった。
落から伝わっていた熱だけでも二科の身体はとっくに反応を示していて、すぐにでも落を入れてほしい気分なのに、そこにさらに快感を注入されるのには苦痛にも似たものを感じる。
「もういいから……はやく……っ」
鎖骨のあたりに落ちている落の頭に手をやって髪を引っ張る。力を込めれば痛いのか、落が眉を寄せて顔を上げた。
「入れろよ……っ」
「あんたは本気で阿呆か」
とにかく早くと急かす二科に落は容赦なく言葉を突きつけた。
それでも、二科は二科で辛くて、どうにかしてもらいたくてしようがなかったのだ。
淫らだと笑われるのも今更だ。
そんなことはどうでもいいから、早く、と二科は脚を大きく開いて誘う。震える性器も、その奥のすぼまりも全てを落に見せ付けるようにして、さらに潤んだ瞳で見つめた。
「落、頼むから……」
「だめだ」
「……なんでっ」
「あのなあ……。あんた、抱かれるの久しぶりなんだろう。おまけにこんなに細くなって、いきなり入れるのなんか無理に決まってるだろう」
固くなってるだろう、と指が二科の奥まったところに触れる。確かにここしばらく使っていなかったそこは、けれど触られればひくりと動く。今すぐにでも飲み込んでしまいたいのに、落は指をすぐに離してしまう。
「いや、もう……っ入れてっ」
「だめだっての」
不毛なやり取りに落はまた一つため息を落として、二科の言うことには取り合わずに手のひらの愛撫を再開した。痩せすぎた身体をさすられて、それこそ全身をくまなく撫でられ、キスを落とされた。
それから、時間をかけて性器を舐められ、銜えられて、敏感な肌はそれらの刺激を全て受け止めてさらに高ぶっていった。
いつになく優しい快楽に性器はすぐに勃ち上がったけれど、射精できるほどの刺激は与えられないまま尻をゆっくりと愛撫された。
舐められて、ハンドクリームで濡らした指で広げられて、べたべたに濡らされた。それでも落は決定的な刺激をくれず、二科は中途半端に煽られるだけ煽られて燻ったままの状態にされた。