清想空

若里清によるオリジナル小説サイト

©2020 Sei Wakasato All Rights Reserved.
無断転載等のことはしないでください。

open05.04.12
その瞳に映る人 第10話
射精できるような強烈な快感が欲しくて、いつものように性器を中に入れられたくて、もうどうでもいいから早く入れてくれと叫んだ。落の指をくわえ込んだままの尻の奥も、収縮を繰り返して落を誘う。
「も、……は、やく……」
「ん」
急かす二科を宥めながら、ようやく指を抜いた落が身体を起こして二科から離れた。
ここまできてまだ焦らすのかと濡れた瞳でと問いかけると、落がゴムあるかと問い返してくる。驚いてさらに見つめると落が苦笑を漏らす。
これまでは二科がひどく嫌がってもそれを無視して、スキンを付けずに二科を抱いていたというのに。今日は一体どうしたんだと見つめれば、今までの行為の最中に見せたこともない優しい顔で返された。
「ないと困るだろう。あんた病人だろうが」
笑みと共に髪をくしゃりと撫でられて、優しい仕草に二科の身体がまたじんわりと熱を上げる。身体が濡れてしまうような感覚がして、二科は落の腕を掴んだ。
「いい……いらない」
「阿呆、病人に無理させられるか」
「いいからっ。……そのまま欲しいから……入れろよ……っ」
当たり前のことをこんなに優しく言われて、心臓が一つ大きく鳴る。身体が喜んでしまって、尻の奥がきゅっと締まる。
そんな気遣いよりも、落の性器が欲しいのだとねだった。
熱くて大きなそれを直接感じたい。もう待てないから早く入れてほしい。めちゃくちゃに中を擦ってほしい。
二科の恥じらいの欠片もない言葉にまた苦笑いとため息を落として、それでも落は二科の足を開かせた。
「どうなっても知らないぞ」
「そ、なの……いい、からっ」
「強情だな」
ふ、と笑って服を脱いだ落が性器を強く押し付けてきた。
「力入れるなよ」
「もう……そんな、力、はいら、ない……」
「そうか」
少しずつ慎重に落の膨らんだ性器が入り口を広げる。
落のそれももう勃ちきっていて、ここまでに相当我慢していたに違いないのに、押し入ってくる仕草に焦りは感じられない。あまりにもゆっくりで、優しくて、ようやく待ち望んだものを味わえる二科の方が落ち着かないくらいだった。
「あ、あ、……んー」
気持ちのいいものが入ってくる。早く欲しいと望んだものがようやくもらえるのだと、二科は落がもっと入りやすいように腰を少しだけ上げる。意図を汲み取った落がすかさずその腰に手をかけて二科の身体を支えてくれた。
体力が落ちてしまったせいで自分で腰を支えるのは辛かった。ありがたく思いながらも、意識は自分の中を割り開いていくものに奪われていく。
「ん、ん、……ふ……ぅ」
「やっぱ、少し熱いな。それに」
「あ、なに……?」
「いつもより、柔らかくて、緩い」
「んっ……ば、か……っ」
揶揄しながらゆっくりゆっくり、二科がもどかしくなるほどの緩いペースでじわりじわりと落の性器が入ってくる。
一気に突き込まれるよりも中にあるものを意識させられて、より感覚が鋭くなる。落の性器が動くたびに生じる痺れが身体を巡って、二科の口からはうっとりしたような吐息が漏れた。
「あ、あ、いい……落……。もっと……っ」
痩せてしまったせいで大した力も出せない腕で落を引き寄せる。それには逆らわないのに落は求めたようには動いてくれず、そのままのスピードで二科の奥へと進むだけだ。
焦れて腰を押し付けてもそれは変わらなかった。二科の中はなんとか求めるものを得ようと引っ切りなしに落を締め付ける。
「や、やっ、やぁっ……も、と、中擦ってっ、て……」
「もう少し、待て」
熱と、欲しいという気持ちのせいでいつもより緩い中をじりじりと進まれる。背中にぴりぴりとした快感が走って二科はたまらない気持ちになった。
もっとはっきりとした強烈な刺激がほしいのに、与えてもらえない。久しぶりの他人の体温に、熱に、二科は燃え上がっている。焦らされると身体の中を巡る欲情が暴走しそうだ。
「も、やだ……っ。早くっ」
「わかったわかった」
丁寧にされるのが辛いのだと頭を振れば、落が優しい声をかけて身体をさらに奥に進めた。
「あっ……」
落の性器がずるりと奥まで入ったのを感じて二科の身体がぶるりと震えた。呼応するように漏れた声に、落が笑って身体をさらに倒してくる。そうしながら腰を揺すられて、身体がびくんと反応した。
落の性器の先端が二科の奥の敏感なところに触れて、そのままぐ、ぐ、と押し付けられれば、それにも身体がひくついて縋るものが欲しくなる。
「ほら」
「ああっ……あ、んっ……いい……っ」
「これでいいだろう? ん?」
「い、い……けど……っ」
でも、これじゃ足りない。これじゃあまだいけない。
「もっと、もっと……っ」
落の背中に縋り付いて、動いて中をうんと擦ってほしいと恥知らずに囁く。
わかったと言うくせに落は身体を重ねたまま繰り返し奥を突くだけで、欲しいものをくれなかった。そのうちに奥がぐちゃぐちゃと濡れてきて、頭がどうにかなりそうなほどの快感に支配された。
落の精液で濡れているのだと思うだけで震え、中途半端な状態だった性器から精液が滴り落ちた。
身体は弱いところを突かれて、濡らされて喜んでいる。
「あっ、ああっ……おく、奥が濡れ、……ぐちゅってっ。やぁっ……やあぁっ……ん、やぁ」
身体と心を裏切るように口からは嫌がるような響きがもれてしまう。
あまりに強烈な喜びに、頭のメーターが振り切れてしまったようだ。次から次へと送り込まれる快感を正常に処理できず、興奮のあまり涙が浮かんでくる。
「だから言っただろ、ゴム付けるって」
嫌がるのはわかっていたのに、と言われてしまえばもう頭を振って訴えるしかない。
そうじゃない。嫌だから泣いているのではない。気持ちが良すぎるのだ。
けれど落はわかってはくれず、もはや何度目になるのかもわからない苦笑いを零した。それが嫌でさらに頭を振っていると、やんわりとそれを止められる。
「ちが……っ。やっ……あ、あ、あぁ……やあ……ん」
「いいから、ほら」
汗で張り付く髪を優しい指でかきあげられて、二科の額に落のそれが当てられた。
「な、に……?」
二科の涙に濡れた睫毛が触れてしまうのではないかと思うほど近くに落の顔がある。それを濡れた瞳で見返すと、落が興奮している二科を落ち着かせるようにまた優しい声を出した。
「目を閉じろ」
「な、んで?」
「閉じろって」
有無を言わせないような口調で言われ、何が何だか分からないまま二科は目を閉じた。途端に落が動き出す。
さっきまでのように身体を揺すりながら奥を突くのではなくて、二科がずっと望んでいたように中を擦りながら出て行く。
「や、……やぁ……いやぁ……っ」
まだ出て行かないでほしい。こすってほしいけれど、まだ中にいてほしい。
気持ちを表すように中は収縮するのに、口からはいやらしい声が出るだけだ。快感のあまり伝えたいことを言葉にすることができない。そんな自分をじれったく思っていると落が動きを止め、再度額をつけて静かな声を出した。
「あんたの大好きな兄さんに抱かれてると思えよ」
そうすれば嫌じゃない。気持ちいいだろう。
そう囁かれる。
違う、そうじゃない、と頭を振るのに落は二科を洗脳するように囁き続けた。
「兄さんを思い浮かべろよ。ほら」
言われると、目を閉じた暗闇の中に祥啓の姿が浮かぶ。優しげな微笑が自分に向けられると思うだけで、気持ちが温かくなった。
その瞬間を狙って落が大きく動いた。抜かれかけていた性器が再び押し入ってくる。乱暴なようでいて、確実に二科の感じるところを押さえた動きは丁寧だった。
そのまま落は二科をひたすらに感じさせるように、執拗に中を擦ってくる。そうしながら唆すように囁き続けられれば、本当に祥啓に抱かれているような気持ちになってきてしまう。
「ああっ、あ……んっ。んーっ……はっ」
「あんたを抱いてるのは、あんたの兄さんだ」
違う。違う、違う、違う。
わかっているのに瞼の裏の祥啓は消えなかった。
「呼べよ。兄さんって」
落はさらに唆しながら身体を穿って、二科に声を上げさせる。気持ちのいいところばかりを丁寧に突かれて、二科の性器からはもう止められないほどの精液が垂れ流しになっている。
ゆっくりと中を擦られて、かき回されて、濡らされて、落の性器で中を弄られるのがたまらなく気持ちよかった。
こんな風に、まるで愛情があるように優しく抱かれたことなどなかった。誰に抱かれてもこんなに気持ちよくなることはなかった。
身体がどろどろに溶けてしまいそうなほど、自分に輪郭があるのかどうかもわからないような状態にさせられる快感は未知のものだった。もうただひたすらに喘ぐことしかできない。
「ああああんっ……あ、あ、あ、……もう、だめ、だ、って」
「だめじゃない。いいだろう?」
「あ……い、いいっ……いいよ……ぅ」
「ほら、兄さんて呼べって」
抱いているのは落だ。こんなに気持ちがいいのも、落がそういう風に抱いているからだ。
わかっているのに、口が勝手に動いてしまう。
「あぁっ。んっ、……に、いさん」
あまりの快感にいろいろなものが麻痺してしまって、自分の意思など無視してどんどん口から祥啓を呼ぶ声が零れ落ちていく。
「兄さん……兄さん……っ」
落に揺さぶられながら、唆されるままに祥啓を呼んだ。
なんでそうなってしまうのかわからないまま、二科の身体はひたすらに快感を貪って、自分でも驚くほどに乱れた。感じすぎて、感情のメーターまで振り切れてしまったようで、祥啓の名を呼びながら散々快感に叫んだ。
「あああっ……あーっ」
落も丁寧に抱きながらもそれに付き合ってくれて、いつになく気持ちのよい優しいセックスは、長い長い情交になった。
 
 
 
泣かされて、祥啓の名を呼ばされて、興奮しきった身体が射精した頃には、二科はぐったりとしていた。落がそんな二科の身体を清めて、干しておいたパジャマを着せてくれたあたりで、二科の記憶はぷつりと途切れている。
目を覚ました頃には既に十九時を回っていて、落はダイニングに伝言のメモを残してすでに帰っていた。
あれだけ濃密な時間を過ごしたものの、起きたときに誰もいないというのは少し寂しかった。
「なんだ、帰ったのか」
本当は帰ってほしくなかった。
そんな風に思うのは、まだ本調子ではないからなのだろうか。
丁寧に抱かれたものの、久しぶりのセックスに少しだけ悲鳴を上げている身体を引きずって起き出した二科は、ダイニングに残されたメモを見てつい零してしまう。
「食欲……ないな」
起きたものの、疲れと、だるさで食欲がない。けれど何か食べなければ薬が飲めない。落に散々注意されたのだからさすがにそれは避けたかった。
とりあえずキッチンで立ったままヨーグルトだけ食べて薬を飲んだ。
歯を磨き、本格的に寝る支度を済ませてダイニングに戻ったとき、二科はふと違和感を覚えた。
よく見るとテーブルの上に置かれた落のメモがわずかに浮いている。
不審に思い、メモを持ち上げるとその下には見慣れた銀色の鎖が置かれていた。
「これ……」
初めて落に会ったときに奪われた、祥啓からのプレゼントのネックレスだった。
「……なんで……?」
どうして落がこれを置いて帰っていったのか。
問いかけるものの、当然の如く、答えはどこからも帰ってこなかった。