その瞳に映る人 第3話
落は笑うと一度指を抜いた。
不審に思って視線を向けると、着ていたシャツを脱ぎ、ジーンズの前を開けた落が再びのしかかってくる。そして、二科に抗う余裕も与えずに片脚を持ち上げ半勃ちの性器の先を押し込んだ。
「あっ」
ぐっと圧し開かれる感覚に二科の足がぴんと張る。いくら慣れていても、十分に解されていないそこに太いものを入れられたら辛い。
力がうまく抜けなくて、さらに入ってこようとする落の性器を拒むように後ろをすぼめてしまう。その方が辛いと知っているのに、まるで処女のようにままならない。
「う、う、……ちょ、待て……」
呻くような声しか出ない二科に舌打ちして、落は二科の脚を思い切り持ち上げ無理に伸び上がって、強引に唇を重ね上顎を舌で撫でた。
空いた手で上半身の向きを正面に戻される。交差する腕が邪魔だと言わんばかりに上に持っていかされ、頭を挟み込む形で固定された。苦しい体勢に眉をしかめる二科には構わず、落は乳首を再度捏ねくり回す。与えられる快感に二科は息を詰めて身をくねらせた。
苦しいのに快くて、口から声が一際大きく漏れた瞬間を狙って、落がスキン特有のぬめりを借りてずるりと入ってきてしまう。
「き、ついな」
「ん、うご、くな」
「少し緩めろって」
「ん、ん、むり……」
あまりに苦しくて、少しばかり痛くて、眉間に皺を寄せる二科の顔を見て落が不適な笑みを浮かべる。
「ふ、いい顔」
「! あくしゅ、みだっ」
「やばいな。あんたのそういう顔、予想以上だ」
「なにいって、あ、ん、う、うご、くなって」
半勃ちのまま二科の中に入った性器がきつい締め付けで固くなる。ぴくぴくと震えるそれに二科の身体が勝手に反応する。ぐいぐいと押し返すように、けれど包むように、入ってきたものを締め付ける。
感じたのか、落は待ってと頼む二科を無視して腰をぐいと動かし始めた。
「いやあ、ああ、ああ、あんっ」
太い落の性器が容赦なく奥を擦る。裂かれんばかりに開かれた入り口付近に確かに痛みを感じているのに、中を突かれて二科の身体に一気に火が灯った。
そこから先はいつも以上の加速で熱くなる。自分でも信じられないような身体の反応に、二科は眉を寄せるが、口からはひたすら甘い声が漏れるだけになる。
落の動き一つ一つに感じすぎて辛い。それを堪えようと、無駄だとわかっているのに反射で腕が動いてネクタイが柔らかい腕に食い込む。ぐ、ぐ、と身体が動くのと同じタイミングで擦れ、時折左右の腕が別の生き物のように違う方向に動こうとして、ぴんとネクタイが張ってしまう。
「も、や、うで、はずして」
「だめだ」
「や、なん、で」
「そんくらいがちょうどいいだろ」
「そんな、こと、な、あ、あ」
「嘘つくなよ」
からかうような口調で、落が大きく開いた状態で抱え上げられた脚の間で濡れそぼっている二科の性器を握った。それだけで高く甘やかな声が二科の口から零れ落ちる。
ここは正直だと言いながら大きな男の手が二科のそれを強く擦り上げる。自分の零したものでにちにちと音を立てるのにも二科は感じてしまい、もうだめだと首を振りたくった。
「だめ、だめ、もう、あ、あ、あっああああっ」
「う……っ」
どくどくと精液を飛び散らかした二科はその反動で自分の中にいる落をぎゅうっと締め付けた。無意識のきついそれに落は呻いて動きを止めたが、達しなかったらしい。硬直が解けた二科の締め付けが緩むと、それを待っていたかのように再び動き出す。
力の抜けた射精直後の身体を揺さぶられて苦しいのと、感じすぎるのとで、嫌だと繰り返したが落は速い腰の動きで二科を征した。
「い、いや、も、も、うご、かないでっ」
「ちょっと黙れって。自分だけいっといてそれはないだろ」
「や、で、でも」
「いいから」
もう喋るなという感じで再び口をふさがれる。そのままよりいっそう激しく腰を突かれた。
嫌がるように首を降り続けていた二科も、しばらくして落が出したときには、快楽の波に揺られ始めていた。それに含み笑いを漏らした男がようやく動きを止める。
「んーっ……は、あ……」
ずるりと萎えても太いものが後ろから抜けると、二科は身体をベッドに深く沈ませた。激しく忙しない情交に体力が奪われて、腕を動かすのも億劫なほどの疲れを覚えていた。
本当は強引なやり口に文句の一つも言ってやりたかったのだが、それを実行するだけの気力すら残っていない。
二科はそのまま放心したように天井ばかりを見つめていたが、汗をかいた身体からはなかなか熱が引かなかった。
「飲むか?」
「……もらう」
ジーンズを整えて一度ベッドから離れた落が冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを持って戻ってきた。飲みさしのそれをまだ横になっている二科に差し出してくる。
あれだけ動いて射精したのに、すぐに動けるとは余程体力があるらしい。
変なところに感心してしまった。
こんな風に無理矢理されたら普通はもっと精神的なダメージが大きいのだろうが、こんなことを考えられるくらいには二科にもまだ余裕があるようだ。結局のところ、二科もこういう行為に慣れているということなのだろう。
「ほら」
「腕、外せよ」
「駄目だ」
「なんで」
「いいから、ほら、ちゃんと持てって」
「ちっ」
上目遣いに腕を外せと言っても落は頷かず、上半身を起こした二科の縛られたままの右手にペットボトルを握らせた。どこまでも強引な仕草に腹も立つが、喘ぎっ放しで酷く喉の渇きを覚えていた二科は一つため息をついて、逆らわずにボトルを受取る。
こぼさないようにうまく力加減をして口に水を含む。口内を潤すそれが心地良くて、もっと、と腕を上げようとして失敗した。
「んっ」
左右の腕がバランスを崩したせいで、水が口から逸れて喉の方へ零れ落ちていく。冷たい感触に肌が震えたが、冷えた水は火照った体にはちょうど良かった。同時に、落の視線が零れた水を追っていくのを感じたけれど、それを敢えて無視して二科は更に水を飲んだ。
「これ」
「ん?」
唐突に落の指が、胸の合間に落ちていたネックレスのプレートを引っ掛けた。全裸の二科が唯一身に付けているそれは、汗のせいもあってきらめいている。白い肌の中にあって銀色のそれは目立つので気が付いたのだろう。
「あんたの肌に良く合っている」
「……そうか」
「自分で買ったのか」
「いや、これは兄さんからもらったやつだけど」
「へえ?」
何も考えずに答えてから二科ははっと口を噤んだ。
危ない光を瞳に浮かべた落がぐっと身を寄せてきて、鎖にかかったままの指が首の後ろに回される。
二科が兄を好きなことを脅しの材料にした男に、更に餌となるネタを与えてどうする。何をやっているんだと頭の回転の遅い自分を呪うけれど、今更時間を巻き戻せるわけもなかった。
抱き込まれるような体勢に二科がびくりと体をすくめると、落は低い声で笑った。
「あんたの大好きな兄さんからのプレゼントってわけか」
「何するんだ……っ」
シャラッと音がして二科の首から鎖が離れ、落の手に取り上げられた。取り返そうと腕を伸ばしたが落はそれを遠くへと放り投げる。
「くそっ、このっ」
腰を浮かしてそれを追いかけようとして、二科は反対に肩を押されてベッドへと沈み込んだ。脚の間に入り込んだ落の腰が、二科が起き上がるのを阻止する。もう一度ジーンズに手をかける落が視界に入り、思わず叫んだ。
「止めろっ」
先にあるものは分かりきっている。突き込まれれば、二科の身体はどうしたって喜んでしまう。けれどそれは嫌だった。
「そう言われてあんたなら止めるか?」
落は汗をかくのを嫌ってか、今度は下着ごとベッドの外へと脱ぎ捨てて圧し掛かってくる。腕を縛られたままの二科はろくな抵抗も出来ないまま、裸体になった落を睨みつけるしかない。
視界に入った落の身体は綺麗だった。不自然に割れてもいなくて、余計な肉も付いていない。こんな時でなければ撫でたいと思ったかもしれない身体だった。
その身体を惜しげもなく使って二科を押さえ込む男は、自分の性器を軽く擦り上げて勃起させてから二科の脚を持ち上げた。そのままスキンも付けずに性器を潜り込ませようとする。
「でっ、待てっ、止めろっ」
二科は取り繕うことも出来ずに慌てて声を張ったが、それも落の嘲笑のような声に払いのけられた。
「何だよ、今更。さっき散々よがってただろ」
「そういう問題じゃないっ。生は止めろっ」
落は口元に嬉々としたいやらしい笑みを浮かべて入口に性器の先端を擦り付けていたが、予想外の反論だったのか一瞬驚いたような顔をして動きを止めた。
「そういうの気にするのか」
「僕は誰にも生でやらせるつもりはない! だから、あ……っ」
こんなことを叫ばなくてはならない自分が情けない。けれど、受け入れる側の二科にしてみれば重要な問題だ。腹の奥に好きでもない男の精液をぶちまけられるのはごめんだ。だから誰にも許したことはないし、これから先も許すつもりはない。
なのに、乱暴な男はやはり二科の言うことなど歯牙にもかけない。擦り付けていた性器をぐっと押し付けて、すぼまりを少しずつ開いていってしまう。
「安心しろ。病気は持ってない」
「だから、そういう問題じゃない! いいから離れろっつってんだろ!」
「問題じゃないならいいだろう」
眉を跳ね上げた落は一度切って、ぞくっとするようなエロティックな笑みを口に浮かべた。
「あんたの初体験もらうぞ」
「てめっ」
「あんたも楽しめよ。俺が生の良さを教えてやるから」
「冗談じゃないっ。誰が……っ」
ぐっと力が込められて、落のものが抵抗する二科の中に入ってくる。脚をばたつかせようにも恥ずかしいほどに開かされて、持ち上げられているので力が入らない。
少し前までの交わりで十分に綻んでいる後ろは、落の先端を容易に飲み込んでしまった。
「はぁ、ん」
太い括れが入ってきたところで二科の腹が揺れた。
身体を開かれている感覚は何度経験しても独特で、慣れない。けれどその後にやってくる強烈な快感を知っているから、期待で身体がもっと奥へと誘うように動いてしまうのを制御できなかった。