清想空

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open05.04.12
その瞳に映る人 第2話
「うっわ、とっ」
ベッドに転がった二科は何をするんだと文句を言う暇も、身体を起こす間もなく、男に乗り上がられて仰向けにされ、先ほど解かれたネクタイで再び腕を拘束された。抵抗する間もない鮮やかで力ずくの早業だ。
「何するんだっ。解け!」
「前にしてやっただけ感謝しろ」
「何が感謝だっ。くそっ」
確かに後ろで縛られるのに比べれば前でされる方が余程良い。肘と手首の真ん中あたりの柔らかい部分を左右の腕が交差するように十字に、ちょうどいい強さで縛られている分、ただの縛りに比べれば格段に良い。
それでも縛られるということ自体が二科にとっては屈辱的だ。
誰が感謝なんかするかっ。
思いをぶつけるように睨みつけるが、男はどこ吹く風といった体で二科のスラックスと下着までも取り去ってしまい、全裸の身体にはシルバーのプレートの付いた細いネックレスだけが残るだけとなる。
くそっ。死ねっ。
心の中で迷いなく吐き捨て抵抗を試みるものの、左右の手がばらばらの方向を向いている縛られ方ではうまくできない。男も、もがく二科が逃げ出せないことをわかっているらしく、余裕の仕草で一度ベッドを離れ、剥いだ二科の服を近くの椅子に丁寧にかけた。
その場でこちらに向き直った落がそのまま動きを止める。
「……なんだ?」
距離を置いて投げかけられる肌の上をはい回る視線に、肌が粟立つのを止められない。普段感じることのない怯えにも似た感覚にくそっと小さく漏らせば、男は背筋がぞっとするような笑みを見せる。
「やっぱあんた、痛め付けられるのが似合う身体だ」
「……っ」
先程の行為でわずかに反応を見せている腰の下に視線を当てながらの、舌なめずりでもされそうな声音に我知らず二科の身体が震えた。
「それに」
言いながら男は戻ってきて二科の顎に手をかけた。震えて体温の低下する身体の中で唯一、燃えるような熱を持っている二科の瞳を覗き込む。
「この反抗的な目がいい。ぶち壊して、泣かせたくなる」
獲物を捕らえたと言わんばかりの、圧倒的な力だった。
こいつ、おかしい。絶対、変態だ。
恐怖にも似た気持ちが涌き上がった。相手を取っ替え引っ替え、一夜限りの相手からそれこそ馴染みのセックスフレンドまでと、夜を愉しんできた慎みのない二科でもさすがにこんなに怖い手合いは見たことがない。
本当に壊されるかもしれない、と半ば本気で考えたところで男が本格的に二科を嬲り出す。
「止めっ、あ、ん、……止めろっ。俺は、素性も、ぅ、知らないやつと、やる趣味は、な、あっ」
先程のやり取りでわかったのか、男は上半身を起こしていた二科の身体をベッドへと沈めさせて、容赦なく弱い胸を両手で責めてくる。負けじと横から男の顔を薙ぎ払うように腕を動かせば柔らかい二の腕に思い切り噛み付かれた。
「いっ」
あまりの痛さに身体がびくりと引き攣ればすぐに噛んだところを舌で慰められ、それどころではないはずなのに官能を刺激される。ぞわりと、不快感と快感を同時に味わわせられるそれに震えが止まらなくなる。
二科の堪えるような顔に満足したように笑う男は、そうだなと言葉を吐き出した。
「あんたがいい声を出すごとに、一つ何か教えてやる」
なんだそれはと思ったところで、全裸で両腕を縛られている二科には逆らいようがなかった。
「ほら、声上げろよ」
言って男は再び噛み跡の付いた二の腕に唇を当て、ちゅっと音を立てながら吸っていく。柔らかい濡れた感触にぞわぞわと慣れた感覚が背筋をはい上がる。
それは間違いなく二科の下肢に熱を運ぶ震えだった。柔らかい内側を軽く噛まれるとさらに震えが酷くなり、二科は怯えるように声を漏らした。
「ん……」
こんな風に痛みを与えられ、それを慰撫するように触れられる行為は爛れた性生活を送る中でも初めてで、ただただ甘いセックスしかしたことのない二科は初めて身の内に灯る熱に翻弄される。こんなのは嫌だと思うのに、二科の身体は強引な男の手に翻弄されて熱を上げていった。
ぐりぐりと乳首を押し潰され、悲鳴を上げたくなるほど強く摘み上げられて二科は唇を閉じられなくなった。痛くて泣きたくなるのにどうしようもなく感じて、息が乱れる。男の手の動きに合わせて半開きの唇からは艶っぽい声が押し出される。
「あ、あ、あ、ん、ふっ」
「いい声だ」
満足そうな顔が、ようやく二科の腕から離れて正面に来る。余裕たっぷりといった体がどうにも癪で、せめてもと睨み付けても余計に男の機嫌を良くさせるだけだった。
遊ぶように柔らかく胸を弄られて二科は思わず身体をよじる。その拍子に立ち上がりかけた自身の性器が腿に触れて、二科は自分を恥じた。
普段は感じている様をいっそ見せ付けるほどの心持ちだったが、痛みの愛撫に感じてしまったことが酷く恥ずかしかった。羞恥に、隠れてしまいたいような気持ちになるが、けれど男はそれには気付かなかったらしい。
「何を聞きたい」
「?」
「やっぱりまずは名前か?」
そこまで問われてようやく、男が先程の傲慢な約束を果たそうとしていることに気付いた。けれど男は二科に答える隙など与えずに自分でさっさと話を進めていく。
「落真晴だ」
「……村野とは?」
「さあな」
落と名乗った男は二科の質問には答えずにやりと笑った。それだけて男の口から放たれた言葉が本当の意味で実行されるのだと気付かされて、二科は心の中で思う存分罵った。
思い切り眉をひそめた二科に落は声を出して笑って、さっき二科が身体をよじったことで閉じていた脚に手を掛けて一気に開かせる。ふるりと勢いにのって二科のものが揺れた。落は迷いもせずにそれに手を伸ばして掴む。
「あっ」
強い力に思わず握り潰されるかと身体が竦んだが、痛みと快感の狭間を揺れ動くような力で擦られて二科は悲鳴を上げた。
「あっ、ん、ん、ん、い、や、あぁっ」
「村野とは大学が同じだった」
「い、や、やだ、て」
「なんで。感じてるだろ」
「やっ」
頭の隅で村野と同じ大学なら頭がいいはずだと考えるけれど、性器を擦るのを止めない落の手のせいですぐに流れていってしまう。嫌だ、やめてと言うのに、落はそんな二科を嘲笑ってさらに強く擦ってくる。
呼応するように二科のものが熱を上げ、完全に勃ち上がる。辛く感じるほどに強く擦られているのに、そんな状態になってしまう自身に羞恥を感じて、二科の身体が真っ赤に染まった。元々の肌が白いだけに赤みが強調されていやらしさが増す。
こんなのはもう嫌だと押し退けようとしても、与えられる刺激のせいで半身を起こせない二科の縛られた腕では落に届かず、ひたすら堪えるしかない。せめて何か頼るよすがが欲しくて、落に押さえられて固定されている下半身はそのままに、上半身をさらによじり、動かしにくい腕を震わせてシーツを握りしめる。
縋るものが出来たことで気持ちは楽になったが、無理な体勢のせいで押さえられている脚が浮き上がった。落もさすがに無理にそれを押さえ付けようとはしないが、手を動かしながらじっとりと二科の身体を観察している。
「も、も、や、めて。すら、ないで……っ」
「すげえ格好だな」
「っだれ、の、せいだっ」
「ふ」
お前のせいだろうっ。笑うんじゃないっ。
思うものの強気なのは心の中だけで、口からはそんな悪態は出てこない。下半身を開けっ広げにして男に性器を弄られて、上半身はいっそ俯せに近いような角度までよじってシーツに縋り付いている。赤く染まる身体の腕は縛られたままで、握られている性器はもう勃ちきって震えてすらいる。
確かに傍から見たらすごい格好だろう。
「俺だけのせいでもないだろう」
「ひっ」
浮いてしまって震える片足を撫でた男が揶揄する。睨んで返そうとした二科は、けれどそれすらできなかった。
口元を皮肉っぽく歪ませた落が性器の先端にある穴をこじ開けるように指先を押し当てた。突然の強すぎる感覚に二科の喉が音を立てる。全身に力が入って瞬間すべての動きが止まった。
「ほらな」
「やあ、や、や、いた、いぃ……っ」
「こんな風にあんた自身が乱れてるんだよ」
「このっ、い、い、……ぃっ」
二科は頭を振って否定するが、落はほら少し滲んできたと言って笑う。二科が容赦のない指先に痛いと繰り返すと舌打ちをして、痛くないだろうとさらに指先をぐりぐりと押し込んで刺激してくる。
「や、い、やぁ、あ、あ、あっあああっ」
最後に指先はそのままに性器の括れをぎゅっと握られて、二科は堪えられずに射精してしまった。
「……ふ、ん……ぅ……は……ぁ」
白いどろりとした液体が勢いよく飛び散って二科の胸や腹、落の指を汚したことはわかったが、二科は浅い息を吐くことしか出来なかった。
強烈な射精の余韻にぐったりしていると、真っ白になった頭の中がようやく思考を開始し始め、自分が痛みをより強く感じる中で高ぶり、射精してしまったことに愕然とする。
まさか甘いところのない、辛いと感じるほどの直接的な刺激だけで達してしまうとは思わなかった。しかも、かなり乱れた自覚もある。
そんな自分の痴態に半ば呆然とし、力の入らない身体をそのままにさせていた二科は腰に濡れた感触を覚えてはっと我に返った。
男性器よりも下にある二科のもう一つの性器とも言えるすぼまりに、ぬめりを伴った指が押し付けられ、強引に潜り込んでくる。咄嗟に脚を閉じようとして、落の強い腕に阻まれる。
「暴れるな」
「あば、れ、て、ない……んっ」
「大人しくしてろ」
「んーっ」
脚を動かそうとする二科に、躊躇なく落は指を一気に奥まで突き込む。そのまま指を増やして中を擦られ、二科は再び身体を震わせるしかなくなる。
落の指は乱暴で、行為に慣れているとはいえ後ろをこじ開けられて苦しさが募る。
「は、は、んん」
「そういや、さっきの続きがまだだったな。何を知りたい」
「やっ」
指が狙いすましたように前立腺を擦り上げて、二科は汗で湿った髪を振り乱しながら首を振った。
こんな状態ではまともに頭が働かない。口からはただただ行為に対しての言葉が出てくるだけで、それでは男を煽るだけだと経験上分かっているのに止められない。
「ゆ、ゆび、なか、すらない、でっ」
「はは、こんな状態じゃ何も聞けないか」
「そんなんじゃ、んんっ」
悔しいが落の言う通りだった。聞いてやりたいと思っていたことも身体に与えられる刺激に霧散してしまう。