清想空

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open05.04.12
もう一度会えたら、その後に 第17話
 落ちてくる唇を避けるように顔を背けると、川田はそれ以上深追いしなかった。代わりに無防備にさらされた首筋に口付けを一つ落とし、そのまま吸い付いた。
決して強くはないが柔らかく吸われる強烈な感覚にいっせいに鳥肌が立つ。
「っ」
「相変わらず敏感だなあ」
「うひゃあっ」
感心したような声の川田に言い返そうとして、Tシャツの下にもぐり込んできた手に驚いて変な声が出てしまった。
「変な声」
「う、うるさいっ」
慌てて川田の手を排除しようとしても、のしかかられた状態ではうまくできるわけもない。あっさりと裾をまくり上げられて薄い腹が露出する。
「村野って肌白いよな。服から出てないとことか真っ白。髪はさらさらの真っ黒だし、外国人の思い描きそうな日本人そのもの、って感じだよな」
「やめ……っ」
熱い手が腹を執拗に撫で、さらにTシャツを上げようとするので光琉は慌てて裾を押さえた。
「ちょ、ちょっと。待て。待て、待て、待てっ。なんでこんな流れになってるんだよっ」
うっかり流さていたけれどこの状況の何もかもがおかしい。なんでこんなことになっているのだ。
「村野に俺とのエッチ好きなってもらおうと思って」
「だからなんでそんな話になってるんだ」
「俺、頑張るって、さっき言ったよ」
たしかにそんなことを言っていたが、だからと言ってなぜ今すぐなのか。
そもそも! 俺の意思はまたもや無視されるのかっ?
光琉は川田を睨み付けた。
「俺は同意してない」
「ああ、うん、そうかも」
川田が目を瞬いて、それから楽しそうに笑った。
いや、『そうかも』じゃなくて、『そう』なんだけど。
「でも」
腹にあった手が上へと進むのを諦めて腰へと下りていく。肌と服の隙間を確認するように前から背中側へと動き、腰骨を確認するように撫でた。それだけで電気のようなものが肌の上を走っていって、光琉は首を震わせた。
ぞくぞくする。
「俺はさ、一年近く待ったよ。すごく待った」
「……っ」
目を合わせて囁かれて、そのまま呑まれそうになった。
ずっと中途半端な状態で川田を待たせていたのは紛れもない事実だ。それに。
「村野だって今日こうなるかもって、考えなかったわけじゃないだろ?」
「…………」
真正面から問いかけられて思わず視線をさ迷わせてしまう。その反応だけできっと川田にもわかってしまっただろう。
川田の言う通り、こういう展開も可能性の一つとして考えていた。
こんな話はどこか外でできるものでもなく、だからと言って光琉の部屋で会うのは絶対に避けたかった。
――だってすでに住所を知られているとはいえ、川田を家に入れてしまったら最後の砦を崩されるような気がするから。
それならば川田の部屋で話をする方がまだましだと思ったのだ。こうなるかもしれないと分かっていても、いざとなったらテーブルをぶん投げてでも抵抗すればいいと考えていた。考えていた、のだけれど。
「だからってわけでもないんだけと。ま、折角だからしようよ」
「いやいやいや、折角ってなんだよっ?」
「ん?」
引きつった顔で抗議してみるものの、『何か言った?』と言わんばかりの笑顔で返される。
だめだ。人の話を聞く気なんかさらっさらない……っ。
「だめ?」
あ、それでも一応こっちの許可を求めるのか。
少しは進歩したのかと思ったそばから、川田の手が服の上から光琉の尻を執拗に撫でる。まったくもって諦める気はないようだ。
「村野は真面目だからさ、好きでもないやつにこんな風に触られたら、おとなしくしてられないって」
「あ、ちょっと」
尻の狭間を緩く指で押される。逃げるように腰がのけ反ったのに、手は力なく川田の胸を押さえただけだった。
「ね?」
光琉の手を取った川田が指先に軽く吸い付いた。それだけで身体が痺れてしまって、光琉は顔を赤くすることしかできない。
「いい?」
それでも確たる返事が欲しいのか、川田が光琉の肩に額をぐりぐりと押し付けながら聞いてくる。今までにも何度かされたことがある。
本人にその意識があるかどうかはわからないが、どうやらこれは川田流の甘えとおねだりのポーズらしい。川田にしては随分とかわいい仕草だ。ついつい構ってあげたくなってしまう。
「ふ」
そう思って口元を綻ばせてしまった時点で光琉の負けだ。もうどうしようもないほど、今更引き返せないほど、流されてしまっている。
光琉はそっと川田の髪に触れて、自分の頭を川田のそれに軽く当てた。すぐに川田の頭が応えるように擦り寄ってきてきつく抱きしめられた。
光琉の言葉のない返答を川田は正しく解釈したようだ。
「服、脱がせていい?」
「……ん」
強引に服を剥かれるのは怖いけれど、はっきりと聞かれるとそれはそれで恥ずかしい。それでもなんとか返事をすると顔を上げた川田が笑みを浮かべた。
なんとなく、いいように転がされた気がする。
少し悔しいような気持ちになりながらも、光琉はそれを受け入れた。全部自分がした選択だ。
羽織っていたシャツを脱がされ、再びTシャツに手を掛けられる。
……人に服を脱がされのって、なんでこんなに恥ずかしいんだよ。
視線をどこにやっていいのかわからず、ひたすら側にあるテーブルの脚を見ていると川田がふと動きを止めた。
「……川田?」
途中で止められるとどうしていいのかわからない。
不安な気持ちで呼びかけると、川田が真面目な顔で思いも寄らぬことを言い出した。
「村野、一緒に風呂入ろうか」
「……は?」
話の流れがまったくわからなくて川田を見返すと尻を掴まれた。
「ここ、綺麗にしてやるから」
「いっ?」
谷間を意識させるようにぎゅっと力を込められる。布越しに指が食い込む感覚に産毛が逆立った。
「ぅや……っ」
「前のときはあんまり優しくできなかったし、今日はゆっくりするから」
「うわっ、わっ」
急に抱き起こされて川田に抱き着くような格好で前のめりになる。光琉の身体を受け止めた川田がすかさずパンツの裾から手が差し込んで、尾骨のあたりを指先で押し回した。
「ひゃあっ」
光琉はその強い感覚に身体を大きく揺らした。川田の熱い手がどこに触れても、身体が勝手に反応してしまう。すべてが背筋を走るざわめきに勝手に変換されていく。
「だから、俺に優しくさせて?」
――これはずるい。
優しく髪を撫でられながら耳元で甘く言われて光琉は完全に落ちた。こんな風に迫られては抵抗できるわけがない。なんといっても光琉にはこういうことの免疫がない。
つーか、やっぱ手慣れてるよな……。
クラスの人気者だった川田。たぶん大人になっても人気者で、付き合った人数も光琉とは比べ物にならないのだろう。
若干落ち込みながらも小さく頷いた光琉はおとなしく脱衣所に連れていかれた。
川田の手で服を脱がされ、先にシャワーを浴びるように言われてバスルームに入れられる。
なんだかうまくのせられた気がする。
落ち着かない気分のまま、光琉は髪を濡らさないようにシャワーの湯を掛けた。
これから何があるのかはもう知っている。
……やっぱり綺麗にしておいた方がいいよな。
川田が触れると分かっているのだからその方が良いに決まっている。川田が、というよりは触られる自分自身の問題だ。
そこまで考えて、猛烈に恥ずかしくなってきた。なんだかんだ言って光琉もその気になっているのだ。
「うー……」
自分をごまかすようにウォッシュタオルでボディーソープを泡立てる。充分に泡立ったところで一度シャワーを止め、身体を丁寧に洗っていると背後でドアの開閉音がして川田が入ってきた。
「お、いい感じ」
川田が泡に覆われている光琉の姿を見て笑んだ。その光景をうっかり振り返って見てしまった光琉は慌てて視線を前に戻した。
うわあああ……。
ばっちりと川田の裸を見てしまった動揺を隠せない。
一年前のとき、光琉は翻弄される一方で川田の身体を見る余裕なんてこれっぽっちもなかったので、きちんと見るのはこれが初めてだ。
服の上からはそんなにがっしりしているようには見えないのに、こうして晒された身体には意外にもそれなりの厚みがある。バランスよく筋肉が乗っていて、どちらかと言えばひょろっとしている光琉の身体とは全然違う。
これでは川田に押さえ込まれて勝てるはずがない。
悲しい事実に内心ため息をつきつつウォッシュタオルを握っていると、背後から川田の手が伸びてきて光琉を囲い込むように壁に左手を突いた。
触れそうで触れない距離にある川田の身体から熱が伝わってくる。それだけで光琉は咄嗟に身体を緊張させた。
そんな光琉を知ってか知らずか、川田は右手で光琉の手にそっと触れて手の内からウォッシュタオルを抜いていった。
「背中洗うよ」
「……えっ? い、や」
自分で洗えるからという言葉は、振り返ろうとした光琉を制するように背中にぴたりと胸を付けてきた川田のせいで口から出なかった。
「洗わせて?」
「……っ」
さらには耳元でねだるように言われて、その言葉と呼気が肌を撫でる感触にいっせいに鳥肌が立った。思わず首をすくめると、小さく笑った川田が光琉の背中を洗い出す。
その手は丁寧だけれどちょうど良い強さで、その心地良さに次第に身体の強張りが解けていく。
ああ、気持ちいいな。
と思った瞬間に遠慮なく手で脇腹を撫でられて、光琉はそのくすぐったさに我慢できず身体を大きく揺らしてしまった。そのはずみでバランスを崩しそうになって、川田の腕に支えられる。
「ひゃっ」
「村野、危ないから壁に寄って」
「う、ん……」
不安定な体勢を心配しているのだろうと、何も疑わずに言われるまま壁際に寄って軽く手を付けた。
その途端、背中を洗っていたウォッシュタオルが下がっていき、腰骨を確認するようにするりと撫で、さらに尻の丸みをなぞり始める。
なんだか雲行きが怪しい。
「ちょっと、あの、川田?」
「んー?」
気のない返事をする川田の手が尾骨を刺激するように何度も円を描く。
「あの、そこは、別にいいんだけど……」
「だーめ。綺麗にするって言っただろ」
「でも、うわっ」
ウォッシュタオルが尻の谷間に入ってくる。左右に割りながらゆっくりと下まで撫でていって、また上に戻ってくる。きめの細かい泡が狭い谷間を流れていく感触がなんとも言えない。