もう一度会えたら、その後に 第19話
ホルダーから引き抜いたシャワーを脚の付け根に当てながら、川田の指がボディーソープでぬめっていた奥を綺麗にしていく。川田の指が自分の尻の狭間に消えていくところなど到底見ていられず、光琉はその間ずっと目を閉じていた。
「んっ、ん……っ」
中を刺激される感覚にどうしても声がもれてしまう。
ぬめりを流し終えたらもう一度シャワーで身体を流されて、今度は脱衣所へ戻された。さすがにバスルームで事に及ぶ気はないらしい。
そのことにほっとしつつ脱力状態で渡されたタオルで身体の水滴を拭っていると、先に身体を拭き終えた川田が濡れてしまった光琉の髪からざっと水気をとってくれる。その手付きが優しくて、光琉はされるがままにした。
気まずい……。
川田の下半身が萎えるどころか勢いを増しているのがうっかり視界に入ってしまい、光琉は頭に掛けられたバスタオルの下でさりげなく視線をそらした。他人のものをこういう距離感で見るのもなんというか、落ち着かない。
しかも光琉のものはさっきの騒動でかなりおとなしくなってしまったから、その落差が余計に羞恥を駆り立てる。
いいや、どっちかっていうと、怖いのかも。
光琉があんなに取り乱したのに衰えない川田の勢いが怖くもあり、これから自分が川田にされることが怖い。一度体験していても、なんとなくこうした怖さは拭えない。
「はい、じゃ、こっち来て」
使用済みのタオルを回収した川田に促されて、素っ裸のままベッドへと連れていかれる。
……これは慣れないな。
真昼間からこんな状況に置かれていることに慣れない。全裸で他人の部屋を歩くのもすごく恥ずかしい。なんというか、非日常という感じだ。
「村野、こっちに背中向けて」
上掛けを剥いで新しいタオルを敷いたベッドに上がるように言われて、緊張が再び身を覆う。けれどここでもたもたする方がきっと恥ずかしいだろう。
光琉は思い切って言われた通りに、タオルの上で四つん這いになった。恥ずかしさを感じる間もなくすぐに背後に川田がやってくる。
「ちょっと我慢して」
そう言って川田が尻をぐっと開いた。指で入口を撫でたと思うと、すぐにぬるりとしたものが垂らされる。
「今回はオイルにしてみました」
「あ……っ」
大量の液体が尻の上に垂らされ、甘い匂いが広がった。同時に液体が身体の線に沿って尻の狭間にとろりと流れていく。少し粘性が強いのかゆっくりとした、じれったいと思うほどのスピードで肌を刺激していく。
「んっ」
不思議なことにそれは、嫌悪感よりも官能を刺激した。すぼまりが勝手にひくひくと動くのがわかって、自分の反応がとんでもなく恥ずかしい。
「指、入れるよ」
前置きをして、光琉の望みに応えるように川田の指が遠慮なく体内に入ってくる。バスルームで散々弄られたそこは簡単に指の束を飲み込んで、指が動くたびにオイルの絡む音が聞こえてくる。
川田は周りにオイルを塗りつけるように数回大きく出し入れをしただけで指を抜き、すぐに光琉の後ろに熱くなっているものをあてがった。声をかけられてすぐに質量のあるものが進入を開始する。
「は、あ、あ……」
「慣らしてもきついね」
痛みはない。
ただそれでも、意識せず逃げようとする腰を掴まれて引き戻された。
大きなものが中に入ってくる感覚をどう逃せばいいのかわからなくて、ひたすらシーツを握りしめていると力を抜くようにと言われる。
「大丈夫、痛いことはしないよ」
背中を撫でられながら優しく言われてぞくりとする。
意識的に呼吸をして、知らず強張っていた四肢から少しずつ力を抜く。褒めるように光琉の髪を撫でた川田がずるりと一気に入ってくる。
「ああっ」
強烈な圧迫感に支配された。
衝撃でつい中のものを締め付けてしまったけれど、川田は躊躇しなかった。光琉の腰をがっちりと掴んでゆっくりと中をこすっていく。
前立腺のしこりを狙われれば、純粋な快感だけとは言えない強烈な刺激に襲われる。バスルームで弄られたときと同じように肌が粟立ち、身体の震えが止まらなくなる。
「ああ……っ」
身体に男を受け入れているのだから相当な苦痛があるはずなのに、それすら感じられなかった。というよりも、過ぎた快感のせいでそれを認識することができないのだろう。
どうしよう……。なんか、前と、全然違うっ。
何度も襲ってくる感覚に震えながら光琉は内心でうろたえた。
去年のときはもっと荒々しくて強引で――強引なのは変わっていない気もするが――、痛みばかりを感じていた覚えがある。川田が光琉の快感よりも自身のそれを追い求めていたこともあるのだろう。
けれど今は違う。前を川田の手に握られながら後ろを擦られると、受け止めきれないほどの快感に襲われ、堪えきれない声や息が引っ切りなしにもれてしまう。
「川田っ、あ、あ、んんっ」
「ん、村野、いい? 俺は、すごく、いいんだけど」
「いい……、いい、よ……っ」
腰が揺れているのがわかる。
――気持ち良い。
単純に快感だけがあるわけではないけれど、川田によって身体が勢いよく追い上げられていく。同時に背後の川田の息が上がってきているのがわかる。
「ひ、んー……っっ」
川田に思い切り前を擦られて先端をぐりぐりと刺激される。
それが最後の合図になった。
高みに登りつめ、全身にこれ以上ないというくらいに力が入る。川田の指に促されるまま光琉は精液をほとばしらせた。
「ああっ」
「……はっ」
後ろから何かを堪えるような声が聞こえたけれど、頭の中が真っ白になるような絶頂感と、そこから一気に落ちていくような墜落感に捕まった光琉にはそれを気にする余裕はなかった。身体が余韻で勝手にびくびくとはねる中、思考が霞んでいく。
ほんのわずかの間、意識がどこか遠くへ行ってしまっていたようで、ふと目を開いたときには光琉はベッドに俯せていた。目の前にはシーツに突いた川田の手が見えている。
「……ん」
「大丈夫か」
「うん」
覗き込んでくる川田に軽く頷いて返す。いつの間にか後ろからは川田が抜けていたようで、身を離した川田に促されるまま仰向けになる。
一度極めた身体は重く、このまま寝てしまいたいと思った。けれどすぐに川田が覆いかぶさってくる。
「気持ち良かった?」
「……うん」
乱れた髪を梳かれながら問われて、恥ずかしいながらも頷いて返す。光琉の返答に川田が笑んだ。
そういえばこの間、前回のは気持ち良くなかったと言ってしまったのだった。一応気にしてくれていたのか。
そう思えばなんとなくくすぐったい気持ちになる。知らず口元が緩んだところで脚を持ち上げられて、光琉ははっとした。
「川田?」
「今度は俺も気持ち良くして?」
そう言って脚を大きく開かされて腰が上向くように角度を調節される。川田の性器がまだ高ぶった状態なのが目に入って、思わず息を飲んでしまった。
……なに、それ。
スキンに包まれたそれはまだ一度も達していないのだろう。元気に上を向いている。
「まだ出してないから、ね?」
駄目押しされて抗うことはできなかった。それでも恥ずかしくてどう返事をしたものかわからず、光琉は視線をそらしたまま頷くにとどめた。
「……ん」
「あ、そうだ。折角だから」
「えっ、ちょっと川田っ? なに」
制止する間もなく川田はスキンを外して、ティッシュにくるんでごみ箱に捨てた。
「どうせなら生でさせて」
「なっ」
いやらしいことを平然と言われて返す言葉が出ない。光琉が口を開けたまま固まってるうちに、再び川田が入り込んできた。
相変わらずこういうときは素早い。
「ん……」
一ミリセンチメートルにも満たないスキン一枚がないだけなのに、入ってくる川田の熱が生々しく感じられる。
「ああ、あ、あ、……あっ」
一度川田を受け入れた場所は、スキンのぬめりがないせいで多少ぎこちないものの、再び進入してきたものを簡単に飲み込んでしまう。そのまま大きく動かれて、与えられる刺激にすぐに頭の中までぐちゃぐちゃになった。
その後、嫌というほど時間を掛けて川田を味わわされて――それでも宣言通りひどいことはされなかった――、最後に中に出されて、そこで長い行為が終わった。
ずるりと川田が抜けていき、ようやく終わったことにほっとして脱力した光琉の身体を川田がタオルで簡単に清めてくれる。
「村野、起きれるか?」
「んー? うん、なんとか」
股関節と腰の痛みに耐えながらそろりと身を起こすと川田が支えてくれる。下半身は何とも言えない鈍痛と怠さに包まれている。
「汗もかいたし、シャワー浴びよう」
「あー、それには賛成」
ベッドも乱れたままだし、このまま休むにはさすがに抵抗があった。ありがたい提案に賛成して、一人ではうまく歩けない光琉は川田の手を借りてバスルームまで連れていってもらった。
そこでさらに一悶着あったのだが、結局は中に出されたものを川田に掻き出されるというとんでもなく恥ずかしい行為――去年のときもされたらしいが、光琉は意識がなかったので知らなかった――をされた。今度は泣いて嫌がっても許されず、きっちりと川田の手で綺麗にされた。
その代わり川田は甲斐甲斐しく面倒を見てくれて、風呂から出た光琉はただ座っていればいいだけだった。至れり尽くせりだったが、その前に思う様貪られたので案外川田にとっては罪滅ぼしのつもりだったのかもしれない。
川田に髪を乾かしてもらい、シーツを交換したベッドへ入り込む。自分とは違う他人の匂いのする布団に包まれるのは不思議な気分だった。
それでも酷使した――いや、酷使された、だろうか――身体は横になると途端に重くなり、急速に眠りに引き寄せられる。
「村野」
「ん……」
そっと髪に触れられる感触を心地良く思ったのを最後に光琉の意識は途切れた。
その後、前回と同じように微熱を出した光琉は、看病するという川田に今度は強引に押し切られ、川田の部屋に泊まる羽目になったのだった。