清想空

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open05.04.12
余談 あの後1
新しい門出を祝福される二人にお似合いの賑やかな二次会が終わると、人々はぞろぞろと会場を後にしていく。これから三次会に行く強者や帰途に着く人など行き先は様々だ。
そのざわめきを聞きながら、クロークでコートを受け取った二科紗<にしなすず>はあたりを見回した。目当ては六歳下の友人である滝崎秀一<たきざきしゅういち>だ。
秀一は今日の主役の一人である村野竜琉<むらのたつる>の大学の後輩で、彼がまだ大学生の頃に村野を通して知り合った。出会った頃の秀一は辛い片想いをしていて、当時同じような状況にあった二科はよく彼の相談に乗っていた。
実は二科が唯一抱いた男でもあるのだが、今となっては色々と問題を起こしそうな話なのでその辺りのことは当人たちだけの秘密としている。もっとも村野などは気付いているような気もするが。
秀一とは彼の恋が落ち着いた後も友人としての付き合いは続いていたものの、ここのところは双方忙しくてなかなか会う機会がなかった。そこで披露宴の前に顔を合わせた際に、二次会の後にゆっくり話そうという話になったのだ。
荷物を受け取るときに秀一とは一度別れたので姿を探して視線を巡らせていると、すぐに向こうが気付いてくれた。
「二科さん、すみません。お待たせしました」
「いや、全然待ってないよ」
「それにしても二科さんとこんな風に会うの、本当に久しぶりですよね。最近どうしてたんですか。仕事は結構忙しいんですか」
「まあ、ちょっと色々あってね」
この半年あまりの間に様々なことがあった。一番大きな出来事は間違いなく落に出会ったことだろう。
「詳しい話はこの後することにして」
場所をどうしようかと秀一に聞きかけたとき、すっと脇にやってきた人物に腕を掴まれた。いきなりのことに驚いて視線をやると、そこに居たのは落真晴<おちまさはる>だった。
「ちょっと待て」
「落」
「どこに行くつもりだ」
威圧するような視線を投げかけられ腕を掴んでいる手に力が込められる。二次会の間はそれなりに機嫌が良さそうだったのに、今はどことなく不穏な気配を振りまいている。
一体なんなんだ。
少しばかり怯みそうになりつつ、それでも二科は落の目を見て言い返した。
「久しぶりに友人に会ったから、この後二人で話をしようと思ってる」
「却下だ」
「は?」
即座に切り捨てられて訳が分からないでいるうちに落が秀一に視線を移した。
「滝崎か」
同じ大学出身のため披露宴でも二次会でも同じテーブルにいたようなので、名前を覚えていたのだろう。秀一が頷くのを見て、落が勝手に断りを入れてしまった。
「悪いがこっちが先約だ。またの機会にしてくれ」
「ちょっと落っ」
落はそのまま二科を引っ張って秀一のもとから引き離そうとする。咄嗟に踏ん張って後ろを振り返ると、呆気にとられた顔をしていた秀一が表情を苦笑いに変えて手を振っていた。
「二科さん、詳しいことはまた今度」
「え? は?」
どう返せばいいのか迷った隙に強い力で引き寄せられ、二科は引きずられるようにしてホテルの廊下を歩かされた。
ちょうどエレベーターが下りたばかりらしく、人のいなくなったホールで落は足を止めた。それでも二科を捕まえている手は離れていかない。
「おい、なんなんだ、一体」
「ったく、二次会では飲むなって言っただろ」
「だから、飲んでないだろ」
こういうときの落は余程のことがない限り自分の意思を曲げないだろう。
二科は大きなため息をついて抵抗をやめた。それでもじろりと睨み上げると、今度は落が呆れたような吐息をこぼす。
「顔が赤い。周りの連中にそんな顔見せやがって」
「そっ、れは……」
どこか忌々しそうな言い方をしながら落の指が二科の頬を擦る。
お前がキスなんかするからだろうっ。
そう反論したいのに、それを口にすることはできなかった。落の仕草に潜む甘さに動揺してしまったからだ。
こういうのには慣れていない。
それでもまるで全部が自分のせいだと言われるのには納得がいかず、お前のせいだとだけ告げれば落は少しだけ目を見張って、それから二科の腕を掴む手に力を込めた。
「とりあえずここで部屋を取ってある」
一体いつの間に。なんとも手際の良いことだ。
思わず感嘆の息を声を上げてしまった。そんな二科を見下ろして落が唇の端を持ち上げる。
「覚悟しとけよ」
落特有の色気のある、どこか獰猛な気配の滲む笑みを落とされて、それ以上何も言えなくなった。
二科自身もそれを望んでいる。
背筋をゆっくりと快感が走っていくのを感じながら二科は頷いて、落の腕にそっと手を添えた。