独占欲は誰がために。
あーあ、つまらない。
優哉はひっそりとため息をついた。
ピアノの防音室の中にしつらえられたソファの上で足を組んで、肘置きに頬づえをついた格好で、ワインの入ったグラスをテーブルに置いた。
先日双子の弟の秀一が長年の想いを成就させてからというもの、優哉の日常からは鮮やかな色が消えてしまった。
まったく、本当につまらない。
秀一がずっと行久を好きだったことには大学に入ったあたりから気がついていた。
それは優哉にとってとても面白くないことではあったが、だからといってその恋を滅茶苦茶にしてやろうとは思わなかったけれど。
そりゃあね、かわいいかわいい秀一の気持ちだから応援してやりたくはあったわけだけどさ。
それでも、行久も何だかんだ言って秀一のことを意識していることが優哉の癇に障ったことは事実だった。
とてもとても、はいどうぞと、大切でしようがない秀一を差し出す気持ちにはなれなくて、行久をなるべく秀一と二人にしないように画策した。
たとえば。
「秀一に、お前が意識していることをばらされたくなければ、俺が日本に帰ってきたときには真っ先に出迎えに来いよ」
なーんて言ったこともあったなあ。
結果的にそれが秀一に、優哉と行久ができていると勘違いをさせて余計な傷を付けさせることになってしまったのだけれど。
さすがの優哉もそれには少し心が痛んだけれど、大事な半身を奪われるのだ、それくらいの意地悪は許されるだろう。
と、思うわけだ。
それでもまさか、こんなに時間がかかってからようやく二人がまとまるとは思っていなかった。
もちろん、途中で秀一が大阪に逃げたことも一つの要因ではあるのだろう。けれどそれも優哉が間接的な原因なのだと思うと、少し胸が痛まなくもない。
でもさ、俺としてはさ。こんなに空虚な気持ちを抱えなきゃいけなくなるわけだからさ。これくらいは許されるよねー。
傍に置いていたグラスに新しいワインを注いで口に含む。
それにしてもつまらないなー。
秀一が自分の元から巣立っていってしまって、優哉の手元にはピアノだけが残った。そのことに後悔はないけれど、何か新たに手にするものが欲しいと思うのは贅沢だろうか。
それでも今まできらきらと輝くように目の前にあった景色を取り戻したい。そうしなければきっと優哉は枯渇してしまう。
早く見つけないとなー。
もう一度自棄のようにグラスを傾けて、また自分自身の大事なものを発見しようと心に決めた。
五月の、新緑の季節のことだった。